空の向こうに![前半]






この世には空の向こうと呼ばれる場所が存在する。
その場所にたどり着いた人間はどんな望みを叶えられる。
かつて世界を統一したといわれる伝説の雷撃王ネリスやそのネリスを倒した炎王……
遥か昔の伝説上の人物は皆、空の向こうにたどり着き望みを叶えた。
そんな伝説のおとぎ話をよく母がしてくれた。
ありえない、そんな話。信じてるわけではないしかし母が死に故郷のアリントンに残る意味がなくなった俺は旅に出た。
どうせなら夢はでかく、空の向こうにいく。
そう志を抱いてアリントンから魔法の国セントバルクに向かっている。
しかしセントバルクに行くまでに国土の8割が森である森林の国ハリタを横断している。
来る日も来る日も森、森、森。
方角はしっかりチェックしているので進んではいるが不安になる。
あとどれ位でこの国を越えられるのだろうか……そんな事を考えながらたき火に薪を放り投げた。
火は薪を食べながら歓喜の声をあげ勢いをます。
光を奪う森の暗闇、その中ではこのたき火の光だけが辺りを照らす。
またもう一つ薪を火に放り込む。
火はさらに勢いを増し、辺りを明るく照らす。
これだけ火が強ければ大丈夫だな。そう思い寝る態勢にはいる。
いよいよ眠ろうとした時だった不意に物音がした。
敏感に体が反応し飛び起き辺りに気配を集中させる。
音が聞こえた。
耳をすます。
これは―――鬼語
まずいと思いとっさに剣をとる。
すると木陰から腰ほどの身長の鬼が現れた。
鬼は人間に近い、知能もあり二足歩行、吊り上った目と牙と鬼特有の皮膚を除けば人間と間違うほどだ。
しかし鬼は危険だ。なぜか、単純に人間とは違い力が強いのだ。
幸いな事に今回目の前にいる食炎鬼ヒクイは人間との腕力の差はそれほどない。
しかしここは光を喰らう森。この場で火を食われるという事は死を意味する。
火を失うわけにはいかない、逃げられない。戦うしかない。
そう決心したがすぐ心が折れそうになる。
相手は三匹いたのだ。
勝てるのか、否かを判断しようとしたがすぐに止めた。
逃げられないのだ戦うしかない。
鬼との距離が徐々に迫ってくる。
今だ。
そう思い、鬼に飛びかかった。
三匹のうちの一匹を一刀両断することに成功した。
しかしすぐ様、右型に強い衝撃が走った。
何が起こったのか困惑している間にさらに左脇腹に痛みが走る。
やはり三対一では無理だったのか、あきらめかけたその時に目の前に一人の男が現れた。
男はすぐさま剣を振り一匹の鬼を倒した。
しかしすぐさま、最後の一匹が反撃に転じる。
あぁ、さっきの痛みはこれだったのかと理解した。
攻撃後無防備になる一瞬をついた死角からの反撃。
しかし男はそれを剣で受けた。
「こいつがリーダーか……」
そう言い放ち、再び攻撃態勢に入る。
それと同時に俺も攻撃態勢に入った。
「おい、お前。大丈夫か?」
「あぁ、ありがとう、助かった」
「おそらくあいつがリーダーだ。他の二匹とはレベルが違うぞ、気をつけろ」
男がそう言い終わるのとほぼ同時に鬼が襲い掛かってくる。
間一髪でそれを避け反撃するが鬼の皮膚は予想以上に硬く刃がはね返された。
鬼が一瞬怯んだ隙に何とか間合いをとる。
「お前、あの鬼を一瞬でいいから止められるか」
男がそう訪ねてきた。
「一瞬といわず五秒止めてやる、あいつを倒してくれ」
「本当にできるのか」
「あぁ、いくぞ」
氷結魔法アイス―――
そう唱えると同時に鬼の凍り始めた。
それを見て驚きながら男は走り出す。
次の瞬間には鬼は真っ二つになっていた。



男はラルクス=ザードと名乗った。
たまたま近くで休んでいるところに大きな物音がし来てみたら鬼に襲われてる俺を発見し気づいた時には助けに入っていたそうだ。
「ほんと、無視しておけばよかったぜ」
やれやれという感じでザードは言った。
「ありがとう、お前がいなかったら死んでいたよ」
俺は笑いながら答えた。
「でも魔法を使えるなら一人で倒せたんじゃないのか」
「いや無理だよ、俺の魔法は鬼三人相手に戦えるレベルじゃない」
「そうなのか、俺は魔法を使えないからよくわからないが魔法を使えるって凄いじゃないか」
「そうでもないよ、たまたま使える力が備わっていただけで……そんな事よりザードの剣技はどうやって覚えたんだ」
俺がそう聞くと一瞬、ザードの顔が暗くなる。
「あぁ、昔、ある国で学んだんだ」
「国で学べるって凄いな、俺には鬼二匹を倒せる剣技はないしうらやましいよ」
ザードはそうでもないさといい近くの鞘を取り出した。
「これが俺の国の剣士の証なんだ」
そういい鞘から剣を抜いた。
剣は折れていた……
「俺の剣技はとても剣士レベルに達していなかったから折れた剣を与えられたんだ」
そう苦笑した。
「わるいな、思い出したくない事を思い出させてしまって」
俺が申し訳なさそうに言うと気にするなと言ってくれた。
「そういえばザードはどこを目指して旅をしているんだ」
「……笑うなよ」
「なんだよ急に、笑わないよ」
「……空の向こう」
そうボソっとつぶやいたので思わず笑ってしまった。
俺以外にそんな所を目指すバカがいているとは。
「お前、笑うなよ」
「だって今さら空の向こうだぜ、そんな所目指すバカが俺以外にいるとは」
俺はさらに爆笑した。お前も目指してるのかよといいザードも笑った。
「なあ、お前、俺と一緒に空の向こうを目指さないか?」
「俺でいいのか?俺はザードみたいな剣技はないぞ」
「お前には魔法があるじゃないか、それにお前の剣技も悪くないぞ」
「褒めても何もでないぞ、まあザードがいいと言うなら喜んで」
そういい俺は右手を差し出した。
よろしくな、ザードはそういいガッチリと俺の右手を握った。


こんな感じで俺はザードと出会い空の向こうを目指す旅を続ける事になった。
なんだか、半分なりゆきで旅をするようになったがまあいいか。








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